メーカーであれ、商社であれ、海外営業という仕事をしていると債権回収に頭を悩ませる事が多いんです。私も何度も経験してますが、ホントにメンドくさい。そこに使う労力が勿体ないですし。
とは言っても、「払わなくてもいーよー」というワケにもいかないワケで、あの手この手で支払いを催促するワケです。
ちょっとぉおお!!!いるの分かってるんですよぉお!?払って下さいよぉおお!!!逃げらんないよぉおお??
相手は海外にいるワケでいちいち現地まで行ってドアを蹴りまくって怒鳴る訳にもいかないです。じゃあ、どうするか?って話ですが、私はまだピカピカの新人だったころは、メールを送ったり電話で催促したりして、「来週払う」「今日入金手続きしてきた」などと言われてバカ正直に待っていたりしたんですが、一向に入金されないじゃないの。
幸運にも取りっパグレは今のところ無いのですが、色々と苦い経験をさせられた中で、やっぱり債権回収にもコツみたいなものがある事に気がつきました。行き当たりばったりで「払って下さい!」と催促するよりも、もっとシステマチックにやる事が大切と思います。
性善説を信じない
人類みな兄弟。話せばわかるさ、マイ・ブラザー!
ではダメなんですね。
私は海外営業として働き出して、さらに債権回収を経験するようになってから、改めて日本人の精神の素晴らしさを実感しました。「来週払う」と言われれば”Thank you for your understanding!”とか言ってバカを見るんですが、それには文化的な違いがあります。まず、日本の企業へ支払い催促するのと同じノリでは全く話しになりません。
日本の企業では、期日までに支払いをするのが当たり前。支払い遅延は失礼であり恥ずかしい事、という意識があります。
しかし、これは海外では通用しないケースがほとんどです。
海外の企業が悪質、というよりも「日本が異常」と考えた方がいいです。
支払いを引き延ばすのが、経理の腕の見せどころ
日本では、普通、経理部の人間は支払い期日までに正確な金額を支払う事を第一として動きます。
しかし、海外では経理の人間は支払いを遅延させる事で評価される事さえあります。
信じられます?
どんなハートしてんだよお前、って最初は思ったものですが、ブーブー言っても仕方ない。それが文化なんですから。
じゃあ、なんでこんな「悪事」をはたらく事で評価されるんでしょう?
アナタから見てお客さんにあたる海外のA社。A社は私達から商品を購入した後に、加工をしてB社へ販売している、としましょう。
アナタの会社を「当社」として、決済条件は
・当社とA社の決済条件:B/Lの日付から30日以内
・A社とB社の決済条件:納入後30日
B/Lというのは船荷証券の事で、船の出港とほぼ同じタイミングで発行されます。売掛の場合、これに記載された日付を起点に30日、60日などと設定する事が多いです。上記の条件に加えて、
・B/Lの日付から2週間で商品が海を渡ってA社に届く
・A社は常に1週間分の在庫をもっている
・A社の加工とB社までの輸送にかかる納期は2週間である
なんか算数の文章題みたくなってきましたね。この場合、
こんな感じでA社の資金負担は約1ヶ月となります。
つまり、A社から見て、当社に支払ってからB社からの入金があるまでの期間です。
ここで悪質な経理担当がやるのは、意図的に当社への支払いを送らせて、この資金負担の期間を短くする、あるいは無くすという事。日本のように金利が恐ろしく低い国にいるとピンとこないのですが、金利が高い国ではいかに資金の回転をよくするかが大切になってきますから、私達が思う以上にこの資金負担の期間に対してシビアな会社は多いです。私の経験上、BRICsの国々(ブラジル、ロシア、インド、中国)ではよくコレをやられました。
営業が全部やる日系企業の弱さと債権回収への認識の甘さ
他にも基礎知識として知っておくべき点があります。
日本の企業の場合、客先の国内外を問わずA社への営業活動、販売、納期調整、代金回収までを1人の営業担当がやる事が多いのです。アナタの会社ではどうでしょうか?
ここに問題なのが、いくら支払い遅延をしていてもA社は一応お客様である事に変わりはないという事です。つまり必然的に営業担当が債権回収も行うとなった瞬間、力関係で圧倒的に不利になるワケですね。強く言えなくなってしまう、という事です。
だって、「金払え」って文句いいながら、売り込むなんてベクトルが逆の方向向いてしまってますものね。でも、日本企業の多くは顧客企業軸で担当が割り振られて、販売から回収までを一気通貫でやるケースが殆ど。一方で海外はどうかというと、債権回収専門のチームがいるケースも多いです。これは、凄く合理的な仕組みだと思います。営業が債権回収をすると、どうしても強く言えなかったり、付き合いの長い人に「必ず払う」と言われるとついつい感情的に「じゃあ、待ってあげよう」なんて思ってしまう。債権回収チームがいれば、そういった力関係や私情をはさまずに回収が実行されるワケです。
これは私の私見ですが、日系企業の経理担当も海外からの債権回収に対してあまりに無頓着な事が多いです。
先ほど言った通り、債権回収は基本的に営業が窓口となって行っている為、経理担当は営業に対して「いつ支払われるか確認して下さい」と言うだけ。また、国内で発生した債権滞留と海外のソレを同じように捉えてる経理担当もいます。
私の実際の経験ですが、私が担当していたロシアの客先からの入金が3ヶ月滞っているという報告が上がってきました。
そこで、経理担当は私に聞くのです。「なんで期日までに支払われないんですか?」と間の抜けた質問をしてきたのです。
つまり、彼女は「期日までに支払われるのが当たり前」という、極めて日本的な考えしかないワケです。
翌日、ロシアの客先から「うちのお客さんからの支払いが滞っている。今週中に払ってくれると言っているから、入金されたらウチもすぐ支払う」という連絡がきました。はっきり言って呆れる言い訳ですが、同じタイミングでその経理担当が「ロシアの売掛金の件、どうなりました?」と電話してきたので、ロシア側から言われたありのままを伝えました。すると、彼女は「じゃあ、来週までには支払われるって事ですね」と言って勝手に納得してました。
おいおいおい、大丈夫かよ経理部、、、と思いつつ、面倒なので電話を切りました。。。
支払い遅延をする側のお決まりの言い訳
支払いの遅延が発生すると、当然ながら催促しますよね?
インボイス番号〇〇の代金の支払いを確認できません。すでに〇〇日経過しているので、至急確認をして下さい。
といった感じで。
これに対して、「支払いをわざと遅延させてくるヤツ」は大体同じ事を言います。もはや常套手段なので、これから紹介する内容で返事が返ってきたら真に受けずに、しっかりと催促し続けましょう。
Invoice(請求書)を貰っていない 〜 We’ve not received the invoice from you.
これを言う人、本当に多い。
単純に失くした場合も考えられますが、大体ウソです。失くしたとしてもEメールを見返せばいいだけですし、そもそも本当に失くしたのだとしたら企業としての管理能力に疑問があります。1度ならまだしも、2度同じ事を言ってきたら、その会社アウトです。
この言い訳をされると、大体の人は「え、送ってなかった!?」などと慌ててメールの送信ボックスを探しまわったりして、送っていた事が確認できてホッとして、「〇月◯に日に送っていますよ」なんてやり取りに時間を使ってしまうんですが、私としては、催促の第一報の時点で請求書を送った時のメールなどを最初から添付しておく事をオススメします。時間が勿体ないので。
その分は既に支払った 〜 The remittance for the invoice was already done. / We’ve already paid for the invoice.
確かに、海外からの送金の場合、日本の口座への着金が確認できるまで数日かかるケースはあります。
その場合、銀行から発行された送金通知書のコピーをPDFなどで送るよう催促するべきです。
私が実際に経験した中で、印象に残ってるのはインドのコザカしい経理担当者です。「既に支払った。送金証明書のコピーを添付する」と言って、PDFを送ってきたのですが、それを見てみると、確かに汚い字でウチの会社の名前とか口座番号、金額が書いてあるんですよ。でも、その後待てども待てども入金が確認できない。で、後から調べたら、それは送金証明書ではなくて、銀行に送金を依頼する時に記入する用紙だったんです。で、当たり前ですが実際に送金はしていない。これはもう確信犯ですよね。
私のようにすっかり騙されないように、用紙には銀行印があるかどうかを確認する事をオススメします。
ウチの客先が払ってくれないから払えない 〜 Our customer has not paid to us.
これ、バカみたいな言い訳ですけど、ガチで言ってくる人けっこういます(笑)
頭のネジはズレてんじゃないかと思いますが、本気で言ってきます。
当たり前ですが、取り合う必要はありません。「ウチには関係ねーよ」でいいんです。アナタがA社に売って、A社がB社に売る場合、B社のA社に対する支払い遅延は彼らの問題であり、アナタとA社の支払い遅延の問題とは切り離されるべきものです。
まあ、本当だとしたら、アナタの客先が財政的に危なくなっているという事なので、それはそれで困った話です。
なので、まず「当社と御社の間での売買契約に、御社とB社の支払い遅延の問題は一切関係ないので◯◯までに支払って下さい」とした上で、それでも言って来るなら、遅延を起こしているB社の名前、担当者、連絡先を開示しろと迫る。それで黙るようならウソついてます。
ウソだとしたら、アナタがB社に対して、「おたくの仕入れ先のA社さんがね、おたくが支払ってくれないからウチにも支払らわないって言うワケ。どうなってんの?もうA社さんへの出荷は止めますから」なんて言おうものなら、A社としてはかなりヤバい状況なワケです。客先であるB社からの信用を一気に失いますからね。B社はA社に「お前、ウチのせいにして支払い止めてるらしいじゃん?」って言うでしょうし、B社としては今後、A社が製品を供給できなくなるリスク(アナタがA社への出荷を止める事によって)があると判断し、B社以外の仕入れ先を検討するかも知れません。
これらは全て、意図的な支払い遅延を起こす会社の常套手段です。
決して真に受けてはいけませんし、聞く耳を持つ必要もないレベルです。でも、日本人はなんか真っすぐというかバカ正直なところがあって、信じちゃう事が多い。私もよく騙されてましたし、、、。
海外からの債権回収というのは金額の規模を問わず、かなり労力を使います。
資金回転の面での損失だけでなく、労力の浪費にもなりますので、「事前の防衛策」と「遅延発生時の回収策」を準備しておく必要があります。まず、大切なのは半沢直樹を見てインスパイアされておく事をオススメします(笑)イヤ、私がまたまたロシアから支払い遅延を喰らった時に、ちょうどドラマで半沢直樹が「5億回収だ」みたいな事をやってて、なんかテンション上がっちゃって。。。金額は数百万なので半沢直樹ほどの規模ではありませんでしたが、毎日電話しまくって脅しをかけたりしながら回収しました。倍返しとはいきませんでしたが、今となっては良い思い出だ(笑)
自衛策などについてはまた今度書きたいと思いますが、海外からの債権回収において海外営業のミッションは「可及的速やかに、かつ極力穏便に回収を済ませて再発を防止する」という事です。催促の結果、裁判沙汰にでもなったらそれこそ本末転倒です。もっと多くの時間と労力を注ぐ羽目になりますから。
海外の債務者の考えは日本人には理解し難いものも多く、営業職が債権回収をやるというのは前述の通り、分が悪い部分はあります。でも、私は経験上、支払い遅延の発生を減少させたり、回収を効率的に行うのは、実は営業職の工夫次第でかなり変わってくると考えています。支払い遅延をしている側も裁判沙汰は困るワケで、大事にならない範囲でチクチクやるものです。なので、自衛策を取ったり、毅然とした態度で効率的な回収の仕組みを持って対応をすれば「コイツはアカン」と見られてきちんと払ってくれるようになるケースも多いです。
ちなみに、債権回収の自衛策について考えると、どうしても行き着く先は契約書なんですよね。でも、海外と取引するのに「契約書結んでない」ってゆー企業って結構多いんですよね、、、。
債権回収の勉強にオススメな本
私は債権回収については、以前に「国際法務実務」のセミナーを受講したのがきっかけでした。
海外営業にとって、海外、とくにBRICsあたりの国からの債権回収は、かなり時間と労力を使うので、本来の仕事に回す時間さえ削られてしまいます。だから、どうにか自分としても債権回収の発生と、労力をミニマイズできないもんかと、思っていたのですが、そのセミナーでこの本を紹介されました。
5年くらい前の本ではありますが、日本人が騙され易いパターンだとか、英文での催促状の書き方なんかを含めた回収の実務的なアプローチの仕方などを詳しく書いてあるんで、かなり勉強になります。海外の客先からの回収作業に時間を奪われている人はもちろん、貿易実務をやっている人は必読の一冊だと思います。
コメント