通関士試験に挑戦することに決めたけど……どうやって勉強すればいいの?
「独学でもいける?」
「予備校って高そうだけど、やっぱりいいの?」
「通信講座って大丈夫?」
コレ、私はめっちゃ悩みました…。「お金はかけたくない!でも一発で合格したい!」って思うじゃないですか。そんな悩みを解消するためにこの記事を書きました。
まず、通関士試験の勉強法は「独学」「通信講座」「予備校」の3つに集約されます。どれが合うかは、ライフスタイル、予算、学習期間によって変わります。それぞれについて説明しますので、是非ぴったりの学習法を見つけてください。
現在は間接税コンサルとして製造業の貿易をサポートしています。7ヶ月の学習を経て2024年の第58回通関士試験に合格しました。このブログでは通関士試験合格のための情報を発信しています。
通関士試験の制度概要
はじめに通関士試験の制度について確認しておきましょう。もう知ってるよ、という方は飛ばしてくださいね。通関士試験は貿易系では唯一の国家資格です。試験は年に1度しかありません。
試験日程 | 毎年10月の第一日曜日 |
試験科目 | ①通関業法 ②関税法等 ③通関書類の作成要領その他通関手続の実務 |
合格基準 | 3科目全て6割以上 |
【重要】通関士試験の難易度、本当に理解してる?
通関士試験の合格率は概ね10〜20%の間で推移しています。
年度 | 3科目受験者合格率 |
---|---|
2019年 | 12.5% |
2020年 | 14.4% |
2021年 | 14.9% |
2022年 | 17.7% |
2023年 | 23.0% |
2024年 | 11.2% |
わざわざ「重要」と記載したのは、楽観的に捉える人が多いからです。「20%かぁ」と無意識に都合のいい方の数字だけを見てしまいがちですが、10%に近い年もあります。2023年度の合格率は23%でしたが、翌2024年は11.2%と半分にまで落ち込みました。
「10人の受験生のうち8人は落ちる試験に挑戦している」という事実をしっかりと肌で感じながら学習している人は多くありません。合格のためには、まずこの実態を把握した上で自分自身に適切なプレッシャーをかけていく必要があります。
2024年の試験当日、私は試験会場の明治学院大学の教室に着きました。1つの教室には30人くらいでしょうか。皆、この日まで必死に勉強してきた人たちばかりです。早朝、仕事帰り、あるいは家事の間にどうにか時間を捻出してきました。皆、静かな緊張の中で最後までテキストに噛り付いています。それでも、合格したのはその中の3、4人のみ。それだけ残酷な試験なんです。
あなたが受験する年が「当たり年」でも「ハズレ年」でも関係なく、試験は年に一度きりです。この怖さをきちんと認識した上で、そのプレッシャーを打ち返すだけの学習量を積み上げれば合格します。
2024年は関税法の難易度が急激に上がり、多くの受験生が振り落とされました。「通関実務さえどうにかなれば合格できる」というそれまでの界隈の常識は覆され、通関士試験対策は新しい局面に入ったといえます。
通関士試験合格までに必要な学習時間
合格に必要な学習時間によって試験の難易度を測ることがあります。通関士試験の場合は、学習を始めた時の貿易知識の量によって大きく変わるので、300時間で合格する人もいれば、700時間で不合格になる人も多勢います。振れ幅が大きいので、とわられすぎる必要はありません。
私の場合は、およそ350時間でした。ストップウォッチで測っていたわけではありませんが、的外れな数字ではないはずです。私はメーカーや商社で貿易に携わっていたこともありますし、受験生の中では予備知識はあった方かもしれません。ですので、ざっくりと「貿易実務に携わっている(いた)人の場合は300〜400時間の学習時間で合格可能」と言えるのではないでしょうか。
1日の学習時間は↓のような感じです。
3〜4月:1.5 〜 2時間
5〜7月:1 〜 1.5時間
8月〜試験前日:平日3時間、週末7時間
恥ずかしいことに、GW後〜6月末まではダラダラしてしまいました。8月の模試でボコボコにされて、焦って勉強時間を増やしているあたり、我ながら人間味があってイイ感じです。
学習期間はトータルで7ヶ月でした。貿易知識がある方であっても受験が初めてであれば、最低6ヶ月は確保するべきです。通信講座アガルートが公開しているアンケート結果でも、学習期間が6ヶ月だった人が24%で最多でした。
学習スタイルは独学・予備校・通信講座
通関士試験の学習スタイルはこの3つに分けられます。どれが良い、という訳ではなくライフスタイルや予算によって相性が変わってきます。下記に詳しくまとめます。
学習スタイル | 費用 | 講義 | テキスト | 質問 | 学習スケジュール |
---|---|---|---|---|---|
予備校 | 15〜20万円 | 通学 | オリジナルテキスト | 講師に聞く | カリキュラム |
通信講座 | 5万円 | 動画 | オリジナルテキスト | 質問制度を使う | 自己管理 (推奨スケジュールはあり) |
独学 | 参考書代のみ | – | 市販の教材 | – | 自己管理 |
予備校は費用は高いものの、合格に必要な教材は全て揃いますし、学習計画の立て方に悩む必要もありません。教材選びやスケジュール管理に不安がある人は検討の価値あり。高い費用を払うことになるので、「自分の退路を断ち、腹をくくりたい」という人にもおすすめです。
通信講座は予備校に比べると費用は抑えめ。好きな時間に動画講義で学べるメリットはありますが、学習スケジュールは自分で管理する必要があります。
通信講座でも、モデルとなる学習スケジュールは示されますし、講座によっては月に一度のホームルーム配信があるので、学習ペースのチェックができます。
独学は費用面で圧倒的に安いのが魅力です。教材を自分で選びたい人や、スケジュール管理が苦ではない人におすすめ。資格取得の勉強になれている人や、貿易知識がすでに豊富な人におすすめです。
【必読】不合格こそが最大のコストである
金額だけで学習スタイルを決めてはいけません。「安いから」という理由で安易に独学を選び、不合格になる人、それ以前に挫折してしまう人は後を断ちません。感覚的な「高い」「安い」ではなく、「不合格になって、もう1年やるくらいなら今年払える金額」を基準にしてください。
予備校に通って合格する人もいれば、独学で合格する人もいます。それは事実です。それを聞くと、「自分も頑張れば独学で合格できるはず」という根拠のない自信から安易に独学を選ぶ人が多いのですが、実際に独学のみで一発合格する人は多くはありません。
当たり前ですが、不合格こそ一番のコストです。キツい言い方ですが、資格試験は合格しなければ意味がありません。「不合格でも、それまでの努力は無駄にならない」などというのは綺麗ごとです。自分の糧にはなりますが、履歴書にかけない以上は社会的な価値はありません。それまで費やした勉強時間が無駄になります。
だからこそ、勉強への投資を気軽に「安く抑えよう」とするべきではありません。挑戦するなら、必ず合格する。まず、何よりもそこを基準に考えてください。
筆者は、決して独学を否定はしません。ですが、初学者が独学で合格するケースは多くありません。社会人であれば、何年も資格の勉強に費やせませんし、予備校に20万円かかっても合格すれば後悔はしないでしょう。しかし、独学で出費を抑えたとしても、不合格になれば喪失感だけが残ります。無理な出費はいけませんが、目先の費用だけで考えてはいけません。
タイプ別にどの学習スタイルが合っているかこの後説明しますね。
ケース① 通関士試験の受験が初めてで、貿易実務の経験もない場合
貿易は未経験だけど、通関士試験合格を足掛かりに転職したい人などが当てはまります。
正直、この場合は独学での一発合格はかなりハードルが高いです。
理由は3つです。
まず、貿易の予備知識がないと、テキストの内容を理解するまでに少し時間がかかります。法令文を理解しても、「じゃあ、それって具体的に貿易のどういう場面なの?」という点がイメージしにくいため、知識の定着に時間がかかります。
学習の優先度については、「絶対に落としてはいけない問題」と「まぁ、落としても大丈夫」という問題を判断することができず、勉強にメリハリを付けにくい点で不利になってしまいます。予備校や通信講座では教えてくれますが、独学では誰も教えてくれません。
学習計画は自分で策定し、進捗管理やメンテナンスをする必要があります。通関士試験は3科目全てにおいて6割を得点する必要がありますので、「3科目をどの順番で、それくらいずつ勉強するか?」によって合否が左右されます。
私は、学習計画の部分が不安だったので独学は断念し、通信講座を選びました。
- 試験本番まで8ヶ月以上ある
- もともと勉強の容量がいい方である
- 学習の計画を立てたり、進捗を管理することを負担に感じない
こういった前提がそろっている場合には独学を検討しても良いと思います。そうでなければ、本当に独学で進めるか見直しても良いかもしれません。
ちなみに、気をつけて欲しいのですが、独学は思うほど安くありません。メインテキストで4,000円、問題集で4,000円程しますし、補助テキストも買い足すことになるので、結局15,000円〜20,000円ほどになることが多いです。筆者の場合は、「じゃあ、あと3万円足して通信講座にした方が安心だな」と判断しました。
ケース② 通関士試験は初めてだが、貿易実務の経験はある場合
仕事で貿易に携わっている(いた)方が該当します。
ただし、「貿易に携わっている」といってもレベルは様々なので、下記のパターンに分けて少し深掘りします。
- フォワーダー勤務で、会社に言われて通関士試験を受験することにした
- 商社やメーカーで輸出入の手配をしている
1の場合は独学も視野に入ってきます。予備知識も豊富ですし、職場には合格者が多くいらっしゃるでしょうから相、談できる人もたくさんいるはずです。また、試験で出題される内容に関わる実際の書類を目にすることも多いでしょう。
日本⚪︎運で働いていた友人は6ヶ月の独学でどうにか合格していました。
2の場合、貿易に携わっていると言いながら「InvoiceやPacking Listだけ作成してフォワーダーに丸投げしてます」という状態であれば、独学では難しいです。その状態から6ヶ月独学で勉強したからといって余裕で合格するような試験ではありません。
私がまさにこのパターンでした。
参考までに、学習開始時点の私の状況を共有します。
【参考】筆者はこうして独学の道を諦めた。
私は前職の商社やその前のメーカーでも貿易実務の経験がありました。ただ、船積書類を作成した後はフォワーダーさんに「よろしく!」とほぼ丸投げでしたので、当然ながら通関の細かい知識はありませんでした。
簡単に言えば、「船積み書類の内容やインコタームズくらいは分かる」程度です。仕事上、EPAの適用申請もをしていたのでEPAは比較的自信がありました。今思うと恥ずかしいのですが、最初は「独学でも余裕でいけるんじゃね?」くらいに思ってました。
しかし、いざ本屋で参考書を開いた瞬間、「あ、コレ無理だわ」と確信。結局私は通信講座のアガルートを受講して合格しました。正直、独学だったら落ちてたと思います。当然、予備知識があることで理解しやすい部分はありましたが、振り返って考えてみると「思っていたほど有利でもなかったな」というのが率直な感想です。
ホント、舐めてました。サーセン。
ケース③ 再チャレンジの場合
残念ながら前回は不合格に終わってしまった人で、今年こそは!という方です。たとえば、通関実務だけ惜しくも届かなかった…!みたいなケースであれば、前年の学習をおさらいしつつ、苦手分野の克服と法改正への対応に専念するのが得策でしょう。
3教科とも全滅だった場合、そもそも勉強量が絶対的に足りていないか勉強法が間違っているので、やり方を見直しましょう。昨年は独学だった、という事であれば予備校や通信講座も検討してみて下さい。参考書を買い換えるくらいでは状況が変わらない可能性が高いです。
前年度すでに通信講座を利用している人は、新しい講座に安易に乗り換えるのはオススメしません。異なるテキストを使うことで、せっかく身につけた知識がリセットされる恐れがあります。昨年の内容に深みを出すことを優先すべきですが、どうしても分かりにくい場合は検討しましょう。
予備校と通信講座、どっちがいい?
予備校と通信講座って共通点も多いので、正直悩みますよね。
予備校と通信講座の共通点
- 講義形式である
- オリジナルテキストを使用する
- 独学に比べると高額
比較のために、代表的な予備校と通信講座を並べてみます。
種別 | 金額 | 合格率 (各社公表データ) | |
---|---|---|---|
TAC | 予備校 | 220,000円(総合本科生コース) 早割適用前は253,000円 | 75.6%(2023) |
LEC | 予備校 | 144,500円(通関士初級者コース) 早割適用前は184,500円 | 非公開 |
関税協会 | 通信講座 | 62,700円 早割適用前は83,600円 | 非公開 |
アガルート | 通信講座 | 43,780円 | 49.02%(2024) |
ユーキャン | 通信講座 | 59,000円 | 非公開 |
フォーサイト | 通信講座 | 52,800円 | 39%(2024) |
合格率の捉え方は注意してください。まず、各社独自の集計方法なので基準が統一されていません。そして、そもそも2023年度は合格率が高く、2024年度は合格率が低い年だったので、2023年度の合格率が高くなるのは当然です。
2025年現在も2023年度のまま合格率実績を公開しているTACと、2024年度の合格率を出している他社を比較するのはフェアではありません。
費用面では、予備校は20万円前後で通信講座は5万円前後と開きがあります。予備校の方が高額だから合格しやすいのでは?と思うかもしれませんが、そうでもありません。予備校は校舎をかまえていますが、通信講座は動画講義のみなので、運営コストが違いも価格差に影響しています。「高額だからいい」という単純な判断はできません。
いくつかの点で比較していきます。
講師のレベル:平均値としては予備校の方が上
何より気になるのは、講師のレベル・講義の質ですよね。 講師の説明は分かりやすいか、分からない部分を親切に教えてくれるか。高い金額だからこそ心配になる部分です。
結論からいうと、平均値でいえば予備校の方が質が高いです。TACもLECも経験豊富な講師陣が揃ってますし、TACの小貫先生は業界でも有名です。説明が分かりやすく、ちょいちょい挟むオヤジギャグは、しょうもなさ過ぎて笑えます。気になる方はオンラインの体験受講もあるのでお試しください。
では通信講座の講師はダメなのか?というと、決してそんなことはありません。正確に言うと、レベルのバラつきが大きいのです。アガルートの加藤先生は、関西弁丸出しの女性講師ですが説明が分かりやすいです。回りくどくて難しい法令文を「つまり、こんな場合を想定してるんですよー」と噛み砕いてくれるので、初学者だった私もストレスなく進められました。
ざっくりまとめると下記のような感じです。
アガルート:初学者に分かりやすい説明。著者を合格に導いてくれた
関税協会:通関士試験対策においては、老舗であり権威。名実ともに安定感最強
ユーキャン:よくわからん。使ってる人を見たことがない
フォーサイト:ク⚪︎です。お金の無駄
ちなみに、私はフォーサイトの講座を購入したものの、講師の説明がク◯すぎて即アガルートに乗り換えました。なので、当ブログではフォーサイトを一貫してディスり散らかしてますので、悪しからず。
ちなみにフォーサイトで合格した人は尊敬してます。あの講義の質で合格したということは、受験生の方の頭がめちゃくちゃいいか、壮絶な努力をされたはずなので。
予備校の方が学習環境を整えやすい
盲点になるのが学習環境です。
物理的な環境と、心理的な環境に分けて説明します。
まず物理的な学習環境については、予備校の場合は自習室が使えるようになります。これは意外と大きなメリットじゃないかと思います。私の場合、平日は早朝と仕事帰りにカフェやマクドナルドに行き、週末は横浜市の図書館で勉強していました。ただ、席が空いてなかったり、周りがうるさくて集中できなかったり、ということもありました。自宅以外にも集中して学習できる環境があるのは大きなメリットです。
心理的な面でいうと、周囲に通関士試験の受験生がいるのは良い刺激になります。通信講座の場合、もちろん他に受講生もいるわけですが、直接会うことはないので基本は一人での勉強になります。同じ目標に向かって頑張っている人が近くにいるだけで、強いモチベーション維持につながります。
通信講座はテキストの買い増しが必要になる場合も
通信講座は予備校に比べると安価です。
自分で学習ペースを管理できるなら、コスパの面では予備校より断然オススメします。ただし、テキストの網羅性に心配が残ります。私はアガルートを使っていましたが、直前期にはアガルートのテキスト以外も使用しました。
テキストの作り方は各社特徴があります。アガルートやフォーサイトは「合格ラインである6割を取れればいい」という前提でテキストを作っているので、無駄を削ぎ落したスリムな作りになっています。初学者にとっては理解しやすくていいのですが、やや内容が薄くて不安が残ります。
ちなみに、関税協会だけは「日頃から難しい問題をこなしておけば本番は余裕でしょ」という高負荷トレーニング系ジムのようなスタンスなので、内容に不足はありません。
誤解のないように付け加えると、講座のテキストだけで合格する方もたくさんいます。
予備校は単科講座も狙い目
「予備校に安心感があるのは分かったけど……いかんせん高いのよ!」
確かに20万円はポンと出せる金額ではありません。人それぞれ予算があります。予備校がいいけど予算的に厳しい場合におススメなのは、本科コースではなく、単科講座です。メインの学習は通信講座で進めて、夏以降に弱点克服のために予備校の単科講座をとる方も多くいらっしゃいます。
例えば、LECの貨物分類講座は定評があります。貨物分類は皆が苦手とする分野ですが、通信講座のテキストでは手薄だったりするので、その弱点をカバーするための方法です。単科講座は1~3万円と比較的手を出しやすい金額です。
【最後に】必ず自分が納得した教材を使おう
最後に一番重要なことをお伝えします。
必ず、自分が納得できる教材を使って勉強してください。「コレをやり抜けば必ず合格する!」と信じられる教材です。
勉強を続けていくと、伸び悩む時期がきます。必ずきます。その時に自分の学習法に心から納得できていないのと、伸び悩みの原因を教材にしていしまいます。不合格になる人に多いのですが、むやみに教材をコロコロと変えるべきではありません。
通関士試験は出題範囲も広く、難解な法令文ばかりで、最初のうちなかなか成果を実感できません。問題集を解いてもバツが並ぶ日々が続きます。目に見えて成長を感じるのは6月以降ではないでしょうか。そもそも学習曲線は後半になってグッと上がってくる性質を持っていますので、それが当たり前です。試験本番のその日まで信じて使い続けられる教材を選ばないと、合格はおぼつきません。
ぜひ、納得できる教材を選びぬいて合格を手にしてください。
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